一番嫌いで好きな人

学祭に出される脚本ってこんな感じなんだろうなって思って夏休みの夜に書いた。タイトルはちょっとこだわった。

登場人物

マサ:自分が好きじゃない陰キャ、好きな人がいる

トシ:マサの唯一の話し相手

ユミ:マサの好きな人、高嶺の花

サヤ:ユミの友達

A,B・・・:未来から思念だけ飛んできたマサ達、体は別人

1.

講義室、入り口でマサが一人喋っている

マサ 青春。友情と信頼、努力と涙、汗と制汗剤、そんなのが渾然一体となった暑苦しくて押しつけがましくて、それでいてキラキラしてるよくわからないもの。その中にあって一際輝いて見えるのが、恋。靴箱に仕掛けられたラブレター、花火に紛れた告白、第二ボタン、制服デート・・・やー、いいねー、若いねー・・・え、俺も若い?・・・んー、世の中には若くても若さを満喫できない人種がいる、というか、キラキラしてるのを目を潰されそうな気持ちで遠くから見てるしかない民族が存在するというか・・・んー、あー、端的に言えば俺は

A   おい、陰キャ

マサ  ふぁっ!!

入り口で立ち止まっているマサにいらだつA、マサはぼそぼそと謝罪しながら席を探すがぼっちが座りやすい席がなかなか空いておらず席に着くまでに時間がかかる

しばらくするとトシが慌てた様子で講義室に駆け込んできてマサの隣に座る

トシ  やべー、遅刻するところだった

マサ  よお、トシ。よかったな、間に合って。

トシ  まあ、一回くらい大丈夫っしょ

マサ  いや、この授業ではだめだから

トシ  あれ、遅刻一回で落単すんのこの授業だっけ

マサ  お前分かってなかったのかよ・・・

トシ  わかってたわかってた

マサ  嘘つけ

トシ  まあ別にいいじゃん

マサ  お前、そういうとこあるよなー、いい加減というか。もっとちゃんとしろよ。

トシ  そういうとこって・・・まだ出会って少ししかたってないだろ

マサ  いや、もうね、にじみ出てるから。初回から遅刻ギリギリとかその表れでしょ。

トシ  なんでだよー・・・あ、でも、遅れてるの俺だけじゃないっぽいぞ、ほら、あの子

ユミ、遅刻を感じさせない優雅な足取りで講義室に入ってくる

二人の視線に気がつき一瞥をくれたうえで着席

トシ  やっぱ俺だけじゃないって。むしろ俺は間に合ってるだけまだましだな、あのタイミングだとちょっと遅刻だし。初回だろうが遅刻即落単だろうが遅刻するやつはいる・・・マサ?

マサ、ユミに見とれている

トシ  マサー、マサくーん?おーい?

マサ  しゅき・・・

2.

食堂、マサが喋っている、

マサ  好き。そのとき俺の頭に浮かんできた言葉はそれだけだった。遅刻すれすれというか数分遅刻しているというのに全く動じないその心の強さ、すっと伸びた背筋から漂う気品、そして圧倒的可愛い!美しい!麗しい!好き!

トシが急にマサの一人の世界に割り込んでくる、二人でだべっていたようだ

トシ  え?お前まじであの子に一目惚れしたの?

マサ  いや・・・まあ、そうなんだけど

トシ  付き合いたいとか思ってる?

マサ  ま・・・まあ、な?

トシ  いや無理だろ

マサ  え?

トシ  だってお前、陰を極めた陰キャじゃん。女子どころかちょっといけてる男子とも話せないし顔に清潔感はないし服も致命的にダサいし、

マサ  いや、でも

トシ  でた、「いや」で言葉始めるやつ。凄く陰キャっぽい。

マサ  いy・・・。・・・・・・

トシ  あんな神々しい美人が、光の住人が、お前みたいなの受け入れるわけないだろ

マサ  ・・・

トシ  悪いことは言わないから、やめとけ、恋なんて。お前がやってみたところで碌なことにならないからな。

マサ  まあ、そう、だな

トシ  無理はすんなよ。

トシ、立ち去る

3.

食堂、一人残されたマサがいじけている

マサ  いや、別に、俺だって本気で付き合いたいとか考えてねーし、言ってみただけだ

し・・・だいたい

ABがマサに接近

A?  やっと見つけたぞ過去の俺

B   そういえば一人でいじけていたなあ、俺

マサ  ・・・は?

A   あ、おい、俺が混乱してるぞ、どうする

B   俺たちのことを説明しないとだめなんじゃないか

A   そうだな、よし、一回しか言わないからよく聞け。俺たちは未来から来たお前だ。

マサ  いや、え?は?

A   だから、俺たちは未来から来たお前だ

マサ  二回言った・・・じゃなくて、なんなんだよ、お前ら

B   俺達はお前でお前は俺達

マサ  俺、そんなしゃべり方しないし

A   目下と身内にでかい面できるお前の性格と訳のわからん状況になった興奮が合わさるとこういう口調になるだろ

マサ  てか、明らかに二人とも俺の顔じゃないし・・・(Aを指し)お前とか、前教室で・・・

A   自分の体で時空を超えてしまうと、タイムパトロールに見つかりやすくなるって妖精さんが言っていたから、しばらくの間体を失敬しいる

マサ  は、妖精?

A,B  妖精、さん、だ!!

マサ  あー・・・はいはい妖精さん。正直何にも納得してないけど仮に、仮にだよ?言ってることが本当だとして、お前ら何しに来たんだよ

B   俺に、きちんとユミさんにアタックしろと言いに来た

マサ  ユミさん・・・?

A   お前の一目惚れした女の名前だよ

マサ  あ、そうなんだ

B   いいか、俺、お前が何も動かなかったらなあ、未来でユミさん、大変なことになるんだよ

マサ  ・・・大変なこと?

B   まずこの夏、ユミさんに彼氏ができる

マサ  ・・・・・・ま、まあそれくらいはありえるよな

B   しかしその彼氏はDVクソ野郎。俺の生きている、今から1年後の世界ではユミさんはストレスで10円はげに悩まされるようになった

マサ  なん・・・だと・・・?!

B   ハゲだぞ、ハゲ!あの美しく可憐なユミさんがハゲ!!こんなことってあっていいと思うか?

A   それだけじゃないぞ、数年と数ヶ月後の俺はユミさんに彼氏ができ、しかしちっとも幸せそうでないのを見続けた心労がたたったせいか、不眠に悩まされるようになった。それを紛らわすために深夜の活動が増え、日中授業に出なくなったせいで単位を落としまくっている!それで親に電話で説教された!昨日洗濯物干した直後に夕立来た!あ、割り箸綺麗に割れなかった!全ては過去の俺がまともに行動を起こさなかったからだ!

マサ  いや、お前はただの責任転嫁だろ!

B   ユミさんをハゲの危機から救うためには・・・お前があのDVクソ野郎よりも早く、すなわち夏休みが始まる前にユミさんと付き合い始めなければならない

マサ  お、俺が?あの子・・・ユミさんと?

B   そうだ、やれるよな?

マサ  ・・・いや、無理無理無理。

A   やれないと俺が留年するぞ。

マサ  だって俺、陰キャでコミュ障だから

ABやれやれという仕草

B   ・・・そんなこと言い続けて変わらないから、今も昔も未来も俺はこんなんなんだよ

A   変わりてえな、と思っても眉の整え方さえググらない。洒落た街にも出て行かない。努力するのがめんどくさいから。私服がダサいことも顔が不潔なことも開き直って改善しない。

B   コミュ障で陰キャな自分は嫌いだけど好きになるための努力は面倒くさいからしたくない

マサ  ・・・

AB、黙り込むマサの後ろに回り、両腕をつかんで引きずり始める

B   うんうん、やっぱり俺は面倒くさいやつだなあ!

マサ  は?え?ちょっ、どこに連れて行

A   グーグル先生はいつでも偉大だな!

マサの叫び声と、ABが大学デビューの方法をまとめたサイトをブツブツ読み上げる声が聞こえる

4.

再び講義室、トシが先に席についている

量産型ちっく陰キャになったマサがその隣に腰掛ける

マサ  うっす、今日は早いな

トシ  ・・・気のせいかと思ったけどやっぱお前、なんか変わったよな・・・?

マサ  あ、わかる?

トシ  なんで?

マサ  前の感じじゃモテないって言われた的な?

トシ  ・・・そっか

マサ  あ、俺、やっぱユミさんにアタックしてみることにした。

トシ  あ?ユミさん?

マサ  この前話してた高嶺の花

トシ  ・・・ああ

マサ  やっぱり、なにもしないうちから全部諦めてちゃだめだよな

トシ  なにするの?

マサ  まず、連絡先聞いてみようと思う。あと、サークル何やってるかとか・・・

トシ  ・・・頑張って

教授が入ってきて授業開始

終了するとすぐにマサはユミのもとへ向かう、接近するマサを認識したサヤは二人の間に割り込み壁を作る、トシは静観

マサ  あ、あのすみません!

サヤ  なんですかあ?

マサ  あ、いや、その、君じゃ

サヤ  ごめん、ユミ、ちょっと先に行ってて

ユミ  お友達?外で待っとくね。

マサ、慌ててユミを追おうとするがサヤに全力で押さえ込まれる

マサ  なにすんだよ!

サヤ  量産型モドキ風情が清らかで美しいユミ様に声をかけて許されると思ってんの?

マサ  別いいじゃないか、声をかけるくらい!

サヤ  痴れ者!身の程を知れ!

マサ  なんでだよ!

サヤ  お前、自分にあの方の隣に並ぶことを許されるだけの何かがあると思うか?

マサ  ない・・・けど、前よりはまし、なはず・・・

サヤ  ・・・アンタもしかして前からユミ様をガン見してたあのキモ陰キャ?

マサ  え、そんなに見てたかな?

サヤ  見てた見てた。・・・すっごく気持ち悪かった。

マサ  へへ・・・

サヤ  気持ち悪い。不愉快。

サヤ、マサに強烈な蹴りを食らわせる

サヤ  ユミ様に二度と近寄るなよ、ゴミ虫

マサ、痛みに呻いて床に転がり歩き去るサヤを見送る、トシがマサに近寄る

トシ  えっと・・・どんまい

マサ  連絡先も・・・サークルも・・・げほっげほっ・・・聞けなかった

トシ  水いるか?

マサ  サンキュ・・・やっぱ俺が認められるにはもっと頑張らないといけないんだな・・・

トシ  ・・・。・・・あー、あの子のサークルなら俺知ってるかも

マサ  ・・・まじ?

トシ  ・・・賭けヘアゴム研究会って知ってるか?

5.

賭けヘアゴム研究会部室、書類が散らばり大変汚らしい様子

マサ  あのー、すみませーん

トシ  誰もいないみたいだな・・・まあ、そのうち誰か来るだろう

マサ  ・・・本当にここであってんの?

トシ  あの子なら賭けヘアゴムくらい嗜んでいてもおかしくないだろ

マサ  そうなんだけどさ・・・

マサ、暇からか机の上の書類を整理しだす、そして名簿を見つける。トシはずっとスマホを弄っていてマサの様子がおかしいことには気がつかない

マサ  ・・・なあ、トシ。お前、ここの部員だったんだな。

トシ  どうした?

マサ  名簿にお前の名前が載ってる

トシ  名簿?おお、よく見つけたな

マサ  ・・・そしてここにユミさんらしき人の名前はない

トシ、不穏な空気を察知してスマホを置く

トシ  あー・・・ユミっていうのはあだ名なんだろ

マサ  ・・・一年生お前だけなんだけど

トシ  ・・・えっと、お前、賭けヘアゴムとか興味

マサ  ねーよ!!クソ、だましやがって!

マサ、怒りのままにトシに殴りかかる、トシ、痛い

トシ  ・・・いい加減目を覚ませよ。無理なモンは無理だって言ってんじゃねえか。なんでそのために無理してんだよ!

マサ  それを言うために?こんなとこまで?

トシ  ちが・・・・・・そうだよ、悪いか

マサ  最低だよ

トシ  みっともねえんだよ、人に認められるために他人の言うこと鵜呑みにして変わろうとしてるの

マサ  でも、今の俺だと誰にも受け入れられないんだろ?

トシ  そうだよ

マサ  だったらなおさら足掻いて変わるべきだろ!

トシ  こんな風に変わっても無駄だってわかってんだろ!実際それでやってみてもキモい陰キャがキモい量産型もどきになっただけのくせしていつまで夢見てんだよ!

両者しばしにらみ合ったのち、トシが出て行く

マサ  ・・・じゃあ俺はどうすればいいんだ

6.

廊下のような空間、マサの頭の中の世界。立ち尽くすマサの前をユミがとおり過ぎる。

マサ  あ、あの!れ、連絡先とか、聞いてもいいですか・・・?

ユミは反応しない

マサ  ・・・やっぱ、俺じゃだめなんだよな。色々、書いてあることやってみたりもしたけど・・・結局俺自身、好きじゃないもんな、俺のこと。自分で好きでもない自分を好きな人に売り込んでいいわけないよな・・・そういえばなんかのサイトで自分を好きにならなきゃだめだって言われてた気がする。

サヤが出てくる

サヤ  好きになってどうすんの?どうしようもない人間のくせに。

マサ  わかってるよ

サヤ  あんたにはあんた自身でさえ好きになれる要素がない

マサ  そう、だから自分を変えたい

ユミ  本当に?

マサ  ユミさん・・・

ユミ  だって、あなた、変わりきれないじゃない

マサ  それは、俺が

ユミ  結局あなたも自分のどこかを好きなんじゃない?守りたい部分があるから変わろうとしないんじゃないの?

マサ  そ、そんなことはない!俺は俺の全部が

ユミ  嫌い?

マサ  ・・・ああ

ユミ  だから、あなたは変われないんだね

笑い声

7.

食堂、マサとABが話している、マサは陰キャスタイルに戻っている

A  え、で、そのままこの時期まで何の行動も起こしてないの?

B  七月終わるぞ?タイムリミット間近だぞ?

マサ  ・・・もういいんだよ

B  いいわけねえだろ!!ユミさんがハゲだぞ?!

A  そうだそうだ!俺も留年しちまうぞ!

マサ  もとから俺の踏み込むべき領域じゃなかったんだよ

AB顔を見合わせ、ため息

A  やっぱ所詮は俺だよなあ・・・

B  豆腐を通り越した霞メンタルというか・・・

マサ  ・・・

B  本当にこのままで終わっていいのか?ユミさんはハゲるしお前はずっと自分が嫌いなままだぞ

A  好きになりたいよな。自分を嫌いなのって苦しいし。

マサ  でも、こんな自分好きになれないし、開き直る自分も受け入れられない。

A  だったら、俺の好きな俺になろうとしろよ。俺が俺を好きになるにはお前が動くしかないんだから。

マサ、立ち上がる

B  どこ行くんだ

マサ  例の授業。今日が最終回なんだよ。

無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう