ノアははこぶね
読む人みんなに息苦しさを
人物
ノア:女の子
サチ:女の子、ノアとルームシェア
オサム:男の子
男:ミハイル
女:エリーゼ
エミ:女の子
スズキ:エミの好きな人
0.
いかにもなファンタジーの勇者っぽい格好をした男女がへたり込んでいる
すごく、いかにもな雰囲気
女:暗黒神が・・・復活する・・・!
男:遅すぎたんだ・・・何もかも
女:ねえ、私達のここまでの旅は、払った犠牲は、一体何だったの?
男:・・・
女:アリスもハンスもエスメラルダも・・・みんなの死は無意味だったの・・・?
男:・・・無駄にしなきゃいい
男、宝石的なサムシングを取り出すがよく見えない
女:そ、それは・・・
男:世界を滅ぼすという伝説のなんちゃらかんちゃらさ・・・
女:そんな・・・みんながつないでくれたこの命を無駄にするって言うの?!
男:逆さ。歪んでしまった運命を正すこと、それこそが俺たちの使命、生かされてきた意味なんだ・・・そうは思わないか?
女:わからないわ!
男:ではこのまま暗黒神の支配する闇と恐怖の世界を放置するか?
女:・・・
男:これしか・・・ないんだ
女:・・・わかったわ
ばーん
女:次に誕生する世界がよいものでありますように・・・
暗転
1.
ノア:光あれ
明るくなる、ノアとサチがゴロゴロしながら漫画を読んだりスマホをいじるなどしている
ノアが本を読み終わる
ノア:また世界滅んだ
サチ:言い方
ノア:だってそうなんだもん
サチ:・・・
ノア:最初は主人公達も前向きに目標に進んで、世界は救われそうだったのに、気がついたら状況がどうしようもないくらい悪くなって、にっちもさっちもいかなくなって、仕方ない、世界滅ぼして再生するか!みたいな
サチ:あっそ
ノア:もー、世界滅びる展開定番過ぎてつまんなーい
サチ:じゃあ読まなきゃいいじゃん
ノア:ファンタジーは好きなんだもん・・・あー世界が軽率に滅んでいく
間
サチ:あーやらかし
ノア:何やってんの?
サチ:テトリス
ノア:たのしい?
サチ:そこそこ
ノア:ほーん
間
ノア、急に飛び上がる
ノア:暇!
サチ:うるさいよ
ノア:つまんない!
サチ:うるさい
ノア:てか、テトリスってなに、もっと他にいろいろゲームあるでしょ
サチ:うるさいってば
ノア:非日常!!!カモン!!!
ノア、隣の人から壁ドンされて飛び上がる
サチ:だからうるさいって言ったじゃん
ノア:だからって壁殴るこたあないじゃないか・・・ごめんなさい
ノア、壁に向かって謝罪のような何かをする
サチは特別反応は返さず、ややあって時計を見て立ち上がる
サチ:あ、じゃあ私これからバイトだから
ノア:ばいと
サチ:うん、じゃあね
ノア:付いてく
サチ:は?
ノア:ひまなんだもん
サチ:・・・は?
2.
喫茶店的なところ
ウェイターっぽい男性を見てノアはテンションが上がる(わーかっこいい!)
オサム:いらっしゃいませ、ご注文お伺いします
ノア:林檎のシブーストと、コーヒー・・・とびきり甘くしてください
オサム:(にっこり)
ノアはオサムに見えない(と思っている)ところでテンションぶち上がり
めっちゃチラ見してる、挙動不審
オサムとサチが小声で会話
オサム:友達だよね、前も見た気がする
サチ:すみません・・・気にしないでください
オサム:面白い子だね
サチ:ただのあほです
オサム:そうなんだ
サチ:ええ、しょっちゅう暇ってだる絡みするし、困ったらすぐに泣きついてくるし
オサム:へえ
サチ:ヘタレのくせに妙なもんによく引っかかるし、生活能力もないし。今日だって、暇だって言って付いてきたんですよ
オサム:・・・そんな顔でそういうこというあたり、本当に仲がいいんだね
サチ:えっ、どんな顔ですか?!
オサム:しーっ
サチ:すみません
さすがに暇になったノアがサチに近寄る
ノア:ねえ、あとどれくらい?
サチ:仕事中に話しかけないでよ・・・あと2時間くらい?
ノア:そう、じゃあ、私帰るね
サチ:はいはい
ノア、退店
オサム:残念?
サチ:別に、そんなことはないですよ
しばらくお仕事したのちに二人はける
舞台は店の外になる
ノア:さーち!
サチ:・・・待ってたの?
ノア:いいや。その辺うろうろしてたら、2時間くらい過ぎてた
サチ:待ってたんだね
ノア:・・・一人で帰りたくなかったんだもん
サチ:鍵なくした?
ノア:ちゃんとあるよ!失礼な(鍵を見せる)
サチ:へえ、ちゃんとしてるじゃん
ノア:絶対馬鹿にしてるでしょ
サチ:そんなことないでちゅよー
ノア:あっほら子供扱い!
ちょっと歩く
ノア:ねえ、サチ
サチ:なに
ノア:えっと・・・その
サチ:なんなの
ノア:バイト先にさ、男性が、ひとり、あれ、一人じゃなかったかも、うーん、サチの隣 に、ひとり、すっごい素敵な方が、いらっしゃった、じゃないですか
サチ:私の隣・・・オサムさん?
ノア:たぶんその人!どんな人なのかなあって
サチ:あの人、私達と大学同じだよ。私と同じクラス。
ノア:えー?!紹介して
サチ:やだ
ノア:けち
3.
雑な場転
他愛ない話をしながら二人の部屋に着く
サチ:ノア
ノア:うん
サチ:レポート書くから、しばらく邪魔しないで
ノア:はーい
課題を進めようとするサチに対してノアは暇そうにうろついている
視界にうつるギリギリのところで顔芸したりする
サチ:あーもー、うるさい!
ノア:ごめーん
サチ:ノアは課題ないの
ノア:あるよ
サチ:じゃあやんなよ
ノア:はーい
二人、しばらく黙々と課題をすすめるがノアにやる気はない
ノアはふと視線を上げたときにサチの資料かノートかが気になる
ノア:あれ、ノア・・・?
サチ:あんたのことじゃないよ
ノア:のあ、の・・・ほう、ふね?
サチ:ノアの方舟・・・もしかして、知らない?
ノア:知らない
サチ:うわーまじか(棒)
ノア:教えてよー
サチ:えー・・・旧約聖書の『創世記』の話なんだけど・・・
ノア:うん
サチ:神は地上に増えた人々の堕落を見て、これを洪水で滅ぼすと「神と共に歩んだ正しい人」であったノアに告げ、箱舟の建設を命じ―(ノアをちらっと見る)あー、ノアって言うおっさんが神様から言われて大洪水に備えてでっかい船を作る話
ノア:え、私おっさんじゃないよ
サチ:だからあんたじゃないノアだって
ノア:そして、でっかい舟って、なんで?
サチ:大洪水が起こるから、うーん、世界が全部海みたいになっちゃうからじゃない?
ノア:え、やばいじゃん
サチ:うん
ノア:船に乗れなかったら・・・
サチ:死ぬよ
ノア:うわあ
サチ:そのノアは船に乗ってて助かることになってるけど
ノア:他の人は?
サチ:ノアが乗せるなら助かるかもね
ノア:ノアが、選べる?
サチ:まあ、実際は乗せようとしても誰にも信じてもらえなかったみたいだけど
ノア:・・・乗せるとしたら誰だろう
サチ:ノア?
ノア:まず、サチでしょ、お父さんにお母さん、とか、あとは・・・
サチ、ノアの様子を見てため息をつき課題に戻る
ノア:誰を乗せよう?
サチとエミが交代する
エミの部屋
エミ:乗せるって、なにに?
ノア:方舟
エミ:なにそれ
ノア:乗ってたら助かるんだって
エミ:ふーん。よくわかんないけど
ノア:エミ、乗る?
エミ:さあ
ノア:えー
エミ:現実感が薄すぎるんだよ
ノア:そうかな?結構世界って滅びそうじゃない?
エミ:いままで世界滅びたことないじゃん
ノア:そっか、そうだよね・・・でも、最近は滅びそうな感じしない?
エミ:よくわかんない
ノア:私もよくわかんないんだけど
エミ:ていうか、そういうときって自分の身近な人を適当に乗せていいの?すっごい技術を持ってるとか科学者とか未来ある子供達とかを優先するとかさ
ノア:えー!それで友達とか家族が死んじゃったらやじゃん
エミ:それでも人類の存続とかをかけるとさ
ノア:じゃあ、もう誰も乗せない!
エミ:人類滅びちゃうじゃん
ノア:滅びればいいんだよ、というか神様の意思に反して生き残ろうとしちゃだめなんだよ、人間なんて
エミ:何なの、その神様
ノア:・・・わかんない
エミ:・・・いつもの話しようか
ノア:うん
エミ:賭けヘアゴムの「賭け」の要素、本当に必要なの?単純にヘアゴムって言ったときの日用品感を薄れさせようとしてない?
ノア:そんなことないよ、むしろ私はその『賭け』の部分にこそ賭けヘアゴムというものがよく現れてると思ってて
エミ:『現在は娯楽目的で行われているにすぎないが、かつては国家による支配のために利用されていたもの』って意味なら「競技」とか「戦闘用」とかでもいけるはずじゃん
ノア:だから、現在娯楽目的で使われていることが大事なんだって
じわじわ転換
ノアの帰ったエミの部屋
歌いながらエミがるんるんしているとピンポン音がする
エミ:はーい
立っていたのはスズキ
エミ:・・・!
スズキ:おとどけものでーす
暗転
4.
サチのバイト先、またオサムとサチの二人でシフトに入っている
オサム:またあの子来たね
サチ:ノアですか?暇なんですよ
オサム:サークルとかやってないの
サチ:謎の部活なら
オサム:謎の部活?
サチ:賭けヘアゴム研究会っていう・・・
オサム:なにそれ
サチ:賭けヘアゴムとは何かを考える集まりらしいです
オサム:結局なんなの?
サチ:それがわかる前に空中分解してしまったらしくて
オサム:ああ・・・
サチ:でもまあ、友達は増えたみたいですよ。今一緒にいる子もそうですし
オサム:そうなんだ
割り込むようにエミとノアの大きな声が聞こえてくる
エミ:だから賭けヘアゴムはヘアゴムの部分こそが大事なんだって
ノア:そしたら格闘技にならないじゃん
エミ:ならなくてもいいんだよ!ヘアゴムを失ったヘアゴムはただのヘアゴムじゃん!
ノア:でも、賭けヘアゴムは『現在は娯楽目的で行われているにすぎないが、悪用することで死者もでる大変危険なもの』じゃん、ヘアゴムそのままじゃ死人が出ないよ
エミ:首絞めたら死ぬんじゃないの
ノア:その前にヘアゴム切れちゃうでしょ
両者にらみ合い、猫のけんかみたいなかんじ
オサム:・・・元気だね
サチ:(ため息)
エミとノアは急に威嚇をやめる
エミ:・・・また脱線しちゃった
ノア:うん。ではお聞きしましょうか・・・どういう人なの?
エミ:・・・宅配のお兄さん
ノア:かっこいい?
エミ:世界一
ノア:出会いは?
エミ:玄関・・・いや、不在連絡票のお問い合わせの電話かな
ノア:すき?
エミ:・・・すごく
ノア:・・・くぅー!!・・・本当にエミが恋してる・・・
エミ:だから恋愛相談させてって言ったじゃん
ノア:だってエミだし
エミ:私だってヘアゴムヘアゴム叫んでるだけの女じゃないよ
ノア:ごめんって
エミ:・・・ねえ、どうやったら話しかけられると思う?
ノア:話しかけてないんだ
エミ:荷物受け取る時の会話ならするんだけど・・・はい、と、ありがとうございます以外の言葉が言えなくって
ノア:うーん・・・ノリと勢い?
エミ:ノアじゃないんだから
ノア:まあ、そのうち話しかけるチャンスくらい来ると思うけど・・・
エミ:そんなもんかなあ・・・
ノア:あと・・・宅配のお兄さんなら缶コーヒーとか渡したら良さそうじゃない?
エミ:なんかありがちだね
ノア:それだけみんな喜んでくれるんだよ。いいじゃんやろうよ差し入れ
エミ:そうだね・・・はあ・・・次会えるのいつだろう
ノア:なんかネットで注文したらまた会えるんじゃない?
エミ:・・・そうじゃん、天才
ノア:あ、これとかどう?中古1円、送料356円
エミ:それ、ノアが欲しい本でしょ。私そういうファンタジー読まないよ
ノア:じゃあこっちとか
しばらくネットショッピングをしたのち、ふたり、ぼちぼち帰宅
サチ:ガールズトーク、してた・・・
オサム:中学生みたいなみずみずしさだったね
サチ:ノアって、女の子だったんですね・・・
オサム:なにそれ(笑)
サチ:だって・・・いや、なんでもないです
間
オサム:ねえ、ところでさ・・・
5.
ふたりの家、ノアが真剣にスマホをいじっている
サチ:ノーア
ノア:わっ
サチ:なにしてるの
ノア:別になにもないよ。サチはどうしたの、なんか機嫌いいね
サチ:-そんなことない
ノア:ふうん?ねえ、折角だからちょっとこれ見てみて
サチ:・・・ノア、好きだよねこういうの
ノア:いいじゃん光り物。サチもブレスレットとか好きなくせに
サチ:私は・・・そんなことないし
ノア:そうですね(笑)ねえ、サチはこっちとこっちのどっちが好き?
サチ:・・・どっちも、微妙かな
ノア:えー、かわいいじゃん
サチ:無難すぎ
ノア:・・・確かに、まあそうだけど。
サチ:ノアが私好みのアクセサリーを選ぼうなんざ100年早いね
ノア:なんだってぇ?
ふたり、笑う
ノア:あー、いいなー光り物、好きな人から指輪もらうとか憧れない?
サチ:そうだね、なんか特別な意味がありそう
ノア:そう!めちゃくちゃ恋人っぽいよね
サチ:プロポーズの時渡すの指輪だしね
ノア:(ひざまずく)僕と・・・結婚してくれないか
サチ:よろこんで!
ノアは立ち上がりサチを抱きしめる。プロポーズ大成功!みたいな感じ
すぐに戻る
ノア:はーオサムさんが急に縁日で売ってた安い指輪くれたりしないかなーいいなー幼なじみっぽいシチュエーションーまあ別にそうじゃなくてもいいんだけど
サチ:・・・ノアって、オサムさんのこと好きなの?
ノア:どうしたの急に
サチ:好きなの?
ノア:・・・好き、だよ
サチ:・・・そっか
ノア:そっかってなによ、本当に真面目に好きなんだからね
サチ:そうなんだ
ノア:かっこいいし、優しいし・・・
サチ:へえ?
ノア:コーヒーめちゃくちゃ甘くしてくださいって毎回注文してたら最近はあたりまえのようにコーヒー風味の砂糖牛乳みたいなの出してくれるようになったんだよ
サチ:それはノアが通いすぎなだけじゃない?
ノア:そしたら、この前コーヒーじゃなくて他の飲み物注文した方が早いんじゃないの?ってカフェラテ勧められて
サチ:頼んだ?
ノア:うん。甘さが足りなかった、けどオサムさんからオススメしてもらったってことが大事というか・・・
サチ:ノアって、好きな人と手が触れあっただけで真っ赤になりそうだね
ノア:悪い?でも生きるの楽しいよ
サチ:悪いとは言わないけどさ、大学生にしては・・・なんというか、ピュア?子供っぽいというかさ
ノア:何が駄目なの
サチ:駄目とはいってないよ
6.
エミとノアがノアの部屋にいる。
正座
エミ:ノア
ノア:な、なんでしょうか
エミ:この前、私に本の注文を勧めたよね
ノア:うん
エミ:アレ・・・普通に郵便受けに投函されてたんだけど
ノア:・・・
エミ:普通に、郵便受けに、投函されてた
エミ:返事!!
ノア:ハイ!
エミ:それじゃあ、意味がないんだよ
ノア:ハイ
エミ:宅配のお兄さんと会いたかったのに本だけ届いてもよオ、意味がないんだよ!
ノア:ハイ
エミ:こんなちっこいお届け物じゃ!ポストに入っちまうんだよ!部屋まで来てくれないんだよ!
ノア:すみませんでした!
エミ:そしてこれがその本だよオ
ノア:あ、ありがと
エミ:あ~ちくしょ~!そりゃそうなんだよな~!
サチ:(声だけ)うるさーい
ノア:ごめーん
エミ:すみません
ノア:・・・あ、お金払うね
エミ:・・・
金銭授受
エミ:たぶんちょっと大きめのもの頼まないといけないよね
ノア:そうだね、そうじゃないとまたポストコースだろうし
エミ:なんかいいのある?
ノア:・・・扇風機とか安かった気がする
エミ:調べてみる。
ノア:まあ、次があるからさ・・・次がんばろ?
エミ:はーい
エミが唸ってごろんごろんする
ノア:・・・ねえ、実は私にも好きな人いるって話したっけ
エミ:え、そうなの?どんな人?私も知ってる?
ノア:知らない、かな。大学は一緒だよ
エミ:素敵?
ノア:うーん・・・ちょっとお茶しない?
喫茶店、今日サチは非番
オサム:いらっしゃいませ
エミ:・・・あの人?
ノア:ふふふ
エミ:そっか
ノア:素敵じゃない?
エミ:うん・・・そうだね
ノア:まあ、私の好きな人なんだけどね!
オサム:ご注文お決まりですか?
動揺するガールズ、特にノアはとても動揺する
ノア:えっと、コーヒーと林檎のシブー・・・あっ、コーヒーだけで
オサム:コーヒー、とびきり甘く?
ノア:とびきり甘く
オサム:はーい。
オサムノア、ちょっと笑う
オサム:お客様は
エミ:・・・一番安いやつ
オサム:かしこまりました
オサム、立ち去る
エミがノアの背中を小突く。痛い。
ノア:痛
エミ:何あの空気
ノア:・・・ふふ
エミ:いつもああなの?
ノア:そうだよ
エミ:空気あまあまじゃん
ノア:そう?
エミ:付き合ってんじゃん
ノア:えっ?!
エミ:嫌絶対そうでしょ
ノア:そんなことないよ
エミ:いいな~いいな~い~い~な~なかよし~
ノア:だから違うってば(嬉しそう)
ふたりはしばらくキャッキャしているが、オサムが注文の品を持ってきて、慌てて黙る
オサム:・・・今日サチいないよ
ノア:わかってますよ
オサム:そうなんだ
ノア:サチ、今日はハイスコア更新の日らしいですから
オサム:ハイスコア?なんの?
ノア:テトリスです
オサム:・・・テトリス?
ノア:結構しっかりはまってるんですけど、サチ話してませんでした?
オサム:・・・してなかった。・・・サチじゃないなら、このお店を気に入ってくれたのかな?
ノア:・・・気に入ったのはお店じゃなくてオサムさんです
オサム:え?・・・あ、ごめんちょっと行くね
どこからか客に呼ばれてオサムは立ち去り、エミはノアをどつきまわす。痛い。
7.
ショッピングモール的なとこ
ノアがぬいぐるみを見比べている、変な顔
オサム:ノアちゃん
ノア:わっ・・・お、オサムさん?!
オサム:すっごい顔してたよ
オサムはノアの先ほどまでの顔をまねするが、ノアはオサムの顔が見られない
ノア:お買い物ですか
オサム:うん、ちょっとね
ノア:何か探してらっしゃるとかですか
オサム:うーん、探してるといえば探してるけど・・・サチの誕生日プレゼント
ノア:あ、私もです!
オサム:まじ?じゃあ一緒に選ぶ?
ノア:―?!!ハイ喜んで!
オサム:居酒屋みたい(笑)
ノア:そうですか?
オサム:うん、凄く元気いいね
うまく反応できないノア
ノア:えっと・・・サチはああ見えて光り物とか可愛いものとか好きなんです
オサム:持ち物はシンプルイズザベストって感じなのにね
ノア:そうなんですよ・・・似合わないからって、自分では絶対に買わないんです。買えばいいのに
オサム:そうなんだ(笑)
ノア:ということで、私はかわいい路線を攻めようと思ってます
オサム:それで、ぬいぐるみ?
ノア:はい・・・絶対好きだと思うんですよ。ふわふわもこもこかわいいから。
オサム:確かに
ノア:この豚とか良さそうだと思うんですけど・・・でもこのくまも捨てがたくて
オサム:それ、猫じゃないの?
ノア:え?
オサム:その黒いの、たぶん猫だよ
ノア:・・・本当だ
オサム:(笑)
ノア、黒猫を棚に戻す
オサム:あ、戻しちゃうんだ。・・・そのくま、どことなくノアちゃんに似てるね
ノア:えー、これですか?
オサム:ぽやぽやしてて、癒やしって感じ
ノア:癒やし・・・?
オサム:くまにするの?
ノア:迷ってます
オサム:あ、これ冷感素材じゃない?
ノア:冬には寒いですね・・・・・・・癒やし(小声)
オサム:そしたら猫の方がいいかもね
ノア:はい
ノア、ちょっと迷ってふたつともとっていく
オサム:あれ、どっちも買うんだ
ノア:片方は自分用です・・・あ、あの、癒やしって・・・
オサム:何?
ノア:いえ、なにもないです
オサム:?まあ、いいけど・・・うーん、ノアちゃんが可愛いを追求なら、俺はアクセサリーでも買おうかな
ノア:えっ
オサム:えっ?
ノア:アクセサリー、ですか
オサム:だめだった?
ノア:だってアクセサリーは・・・。・・・。もうちょっと違うものにしませんか
オサム:もしかしてもう買っちゃってたとか?
ノア:―そうです
オサム:そっか・・・残念だな
二人、歩き去る
食品コーナー
エミが入ってくる
エミ:缶コーヒー・・・微糖と無糖とブラックってどう違うの・・・?・・・うーん、微糖って感じの顔してたし微糖でいいかな。でもなあ・・・うーん
再びオサムが、今度は一人で入ってくる
オサム:可愛いもの・・・これとかどうだろう、いや、こっちの方が・・・
かなり迷った末にエミは適当な缶を、オサムはクソださポーチをひっつかんで立ち去る
8.
エミの部屋、ノアとエミが玄関前に正座してスタンバイしている
ピンポン音
ノア:!きたよ!
エミ:はーい
スズキ:内田・・・エミさんですね
受け取りの手続き、はんこなど
スズキ:ありがとうございましたー
スズキ帰る
ノア:来たね!!
エミ:かっこよかった!!ね!!
ノア:あ、見て部屋の外通ってる
エミ:わー!ほんとだ、道歩いてる!
凄く盛り上がる、後に間
エミ:あっ、コーヒー・・・。
ノア:あっ
エミ:甘くないコーヒー、飲める?
ノア:・・・次までとっとこう
エミ:そうだね
間
ノア:・・・ねえ、こういうの、子供っぽい?
エミ:なにいきなり
ノア:サチに・・・ルームシェアしてる子に言われて
エミ:・・・まあ普通の女子大生の言動じゃないよね、きっと
ノア:でもさ・・・勝手に片思いしてるの、楽しくない?
エミ:超楽しい
ノア:後ろ姿で盛り上がったり、ちょっとだけ待ち伏せしてみたり・・・小学生だね
エミ:いいじゃん、楽しければ
ノア:そうだよね。うん。
エミ:というか、誰に迷惑をかけてるわけでもないしとやかく言われる筋合いないでしょ
ノア:そうだよね
エミは扇風機を邪魔にならない場所に持って行く
ノア:・・・ねえ、実はあの人もエミのこと好きだったら、とか考えたことない?
エミ:さすがに痛いよ、その妄想
ノア:えー
エミ:・・・話しかけるのもこれだし、考えたことなかった
ノア:・・・
エミ:想像付かないけど・・・でもすっごく嬉しいんだろうな
ノア:・・・
エミ:なに
ノア:どきどきした・・・今、凄い女の子の顔だった
エミ:なにいってんの
ノア:今のエミ、凄く可愛い
エミ:なにいってんの
ノア:可愛いよ~私が宅配のお兄さんなら惚れちゃう
エミ:・・・オヤジみたいな顔になってる
ノア:え、うそ
エミ:気持ち悪い
ノア:オヤジは言い過ぎじゃない?だよね?
9.
二人の家
ノア:サチー、おかえり!
サチ:はいはいただいま
ノア:ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・この子?
サチ:何この可愛い子~~~!!
ノアが見せていたぬいぐるみをサチが奇声をあげながらアクロバティックに奪い取る
しばらくあらぶった後に落ち着く
サチ:・・・ありがとう
ノア:どういたしまして、誕生日おめでとう
サチ:ありがと。豚ってあんま見ないよね、かわいい
ノア:猫だよ
サチ:え・・・ほんとだ
ノア:おいしそうとか言い出す前で良かったね
サチ:・・・ご飯食べ行く?
ノア:作ってるよ
サチ:・・・(鼻をくんくん)シチュー?
ノア:大正解
サチ:ありがとう、大好物
ノア:しってる。・・・ねえ、オサムさんから何もらった?
サチ:なんで知ってるのよ・・・えっとね、綺麗なお菓子
ノア:ふふふ、趣味がいいでしょ
サチ:なるほど、ノアの入れ知恵なんだ。うん、凄く素敵。あとで一緒食べよう
ノア:ふふふ
サチ:あと・・・なんか、ポーチ
ノア:ポーチ?
サチ:これ(絶妙に可愛くない緑色のポーチ)
ノア:・・・うわあ
サチ:さすがに、ノアのセンスじゃないよね
ノア:・・・うん
サチ:・・・なんか、白菜を思い出すね
ノア:私、キャベツかと思った
サチ:・・・野菜、好き、なのかな
ノア:さあ・・・
気まずい沈黙、ノアに電話がかかってくる
ノア:はーい、エミ?
電話の先がうるさい
ノア:ん?コーヒー?・・・あーだーいじょうぶ、次がある次がある・・・また来てくれるよそりゃ!・・・ごめん、ちょっと出る
サチ、無言で手を振る
エミは声だけなのか出てくるのか、どちらにせよノアと通話している
エミ:次?
ノア:そうそう
エミ:・・・次があって、どうなるの
ノア:えぇ・・・仲良くなれるかもしれないじゃん
エミ:仲良くなれたとして、その先は?
ノア:ちょっと話できるようになるだけで楽しいんじゃないの?
エミ:・・・そうかな
ノア:元気だしなって。コーヒーとかさ、きっと喜ばれるよ。そういうの嬉しいって話よく聞くしエミも一生懸命選んだんでしょ
エミ:うん・・・また扇風機、頼もうかな
ノア:ファイト
ノア戻る
サチ:コーヒーがなんだって?
ノア:渡せなかったんだって
サチ:へえ、よくわかんないけど残念だったね
ノア:うん、結構落ち込んでた
サチ:どんまい。コーヒーっていわれるとバイト思い出すなーやだな
ノア:いいじゃん、別にきついわけじゃないんでしょ
サチ:うん、ピュアホワイトバイトだよ
ノア:それに、オサムさんもいるし
サチ:・・・
ノア:サチ?
サチ:ノア、あのさ
ノア:?
サチ:なんにもない
ノア:・・・呼んだだけ?
サチ:そうそう
ノア:・・・そっか
暗転
10.
ノアの部屋、一人ノアがぬいぐるみを抱きしめて座り込んでいる
ノア:オサムさん、なんであんなポーチ追加で買ったたんだろう・・・なんで当たり前みたいにアクセサリーを買おうとしてたんだろう・・・?なんか・・・恋人みたい・・・
ばったりと倒れ、ごろんごろんしだす
ノア:しーーらない
間
ノア:あー、オサムさん素敵だよなぁ・・・私のこと、癒やしっていってくれたの嬉しかったなー・・・これからもっと仲良くなりたいなぁ・・・そして・・・はあ、次会えるのはいつなのかな・・・次会ったら・・・
寝返り
11.
エミの部屋 扇風機が結構ある
雨がしっかり降る音がしている
ピンポン音
エミ:ハイ!
スズキ:おとどけものでーす
エミ:ありがとうございまーす
手続き
エミ:あ、あの、スズキさん
スズキ:え?名前・・・
エミ:あの、名札に・・・
スズキ:あ、そうか・・・びっくりしました、すみません
エミ:あ、あの、ぶしつけですが・・・恋人とか、いらっしゃるんですか?
スズキ:え?
エミ:・・・その、彼女、とか
緊張感、空気が固まる
スズキ:・・・いますよ、へへへ・・・あ、すんません。
エミ:そう、ですか・・・あ、荷物ありがとうございます
勢いよく、半ばひったくるように段ボールを受け取る
エミ:あ、えっと、きょ、今日寒いですよね、コーヒーとかいりませんか?
スズキ:あー、そういうの受け取っちゃ駄目なんですよね。申し訳ないです。
エミ:あ、そうですか・・・そうですよね、ごめんなさい
間
スズキ:えーっと・・・失礼して、いいでしょうか
エミ:あっ、すみません・・・すみません・・・ごめんなさい
エミ、ペコペコする
転換toノアサチの部屋
ノアはとてもウキウキしていて、サチは思い詰めた顔をしている
ノア:この前、オサムさんっぽいひと大学で見かけたんだ。本人かなーって思ってちょっとずつ近づいたら、やっぱり本人で、しかもこっちに気がついてくれて。手を振ってくれて~私そのときどっきどっきしちゃって
サチ:ノア
ノア:なに?
サチ:えっと・・・その・・・オサムさんのことなんだけど
ノア:うん
サチ:・・・付き合ってるんだ、ちょっと前から。告白うけて。
ノア:え
サチ:ごめん・・・話さなきゃって思ってたんだけど
ノア:えっと・・・嘘じゃない?
サチ:うん
ノア:冗談でもない
サチ:うん・・・言い出せなかった・・・本当にごめ―
ノア:いやいやいや大丈夫ダイジョウブ、私の好きとかただの憧れだし!
サチ:・・・ごめん
ノア:(もげそうなくらいに首を振る)
サチ:ノア・・・
ノア:えっと、その・・・平気だよ?全然平気なんだけど、ちょっとだけ一人にしてくれない?
12.
11続き、きまずい、ピンポン音
サチが走って出て行く
サチ:はーい・・・オサムさん?どうしたんですか、急に
オサム:ドーナツ沢山もらったから、おすそわけ・・・って連絡してなかった?
サチ:・・・(スマホ)あ、LINE蹴ってた・・・ごめんなさい
オサム:いや、こっちこそこんなに急でごめんね
サチ:いえ。ドーナツありがとうございます
気まずい沈黙
オサム:ごめん、嘘。本当は一緒に食べようと思って買ってきた
サチ:・・・なにやってんですか
オサム:だめ?
サチ:・・・・・・
ノアが玄関に向かう
ノア:・・・オサムさん
オサム:あれ、ノアちゃん?・・・あ、そっか二人一緒に住んでたんだったね
ノア:あがりませんか?外雨降ってますし
サチ:・・・いいの?
ノア:なんで私がだめって言うの。あ、サチの部屋、あっちです
オサム:ありがとう
二人はサチの部屋に移動しノアは黙って見送る
ノア:こういう時ってお茶でも入れた方がいいのかなー?わっかんないや
湯沸かし器のスイッチオン
同時刻、サチの部屋
オサムとサチがくつろいで座り、オサムはなんとなく部屋を見て、黒猫のぬいぐるみを発見する
オサム:あ、あれってもしかしてノアちゃんの
サチ:そうです!可愛いですよねー、私これ最初豚だと思っちゃって
オサム:あはは
サチ:あ、あの時のお菓子、おいしかったです。ありがとうございました
オサム:どういたしまして。
にこにこ
サチ:えっと・・・
オサム:そういえばさ、どうしてサチってずっと敬語なの?
サチ:え
オサム:いや、ちょっと遠いなって思って
サチ:ごめんなさ・・・あえっとご、ごめん
オサム:無理はしなくていいんだけど
サチ:・・・ごめんなさい、善処します。距離とかじゃなくて、単純にちょっと苦手なんです、ため口とか。家族にも敬語ですし
オサム:でも、ノアちゃんにはくだけてない?
サチ:あの子はまた別ですよ(笑)
オサム:・・・サチにとって、ノアちゃんは特別、なんだね
サチ:ふふ
オサム:なんか、妬いちゃうな
サチ:長い付き合いですから
間
オサム:・・・俺は、仲良くなりたいってずっと思ってたし告白にOKもらえて嬉しかった
サチ:オサムさん?
オサム:サチはどうなの?
サチ:私も付き合えてうれし―
オサム:仕方なく付き合ってくれてない?
サチ:えっ
オサム:そこ、ポーチ
オサムがタグも切られていないクソださポーチを拾い、タグで指につるしてみせる
あっって感じ
オサム:子供っぽいよね、ごめん
サチ:・・・ごめんなさい
オサム:ごめんね
サチはオサムの手を握って無言で首を振る
無言の流れでなんやかんやありオサムがサチを押し倒し黒猫ちゃんが下敷きになった大変危険な体勢になったとき、ノアがお茶持って入ってくる。この世でもっとも気まずい沈黙
ノア:・・・えっと、おじゃま、しました
12.
夜、ノアの部屋、土砂降りの音、ぬいぐるみを抱え一人で体操座りをするノア、ノック音
サチ:ノア
ノア:・・・
サチ:・・・ごめん
ノア:なにが?
サチ:昼間・・・
ノア:なにが?
サチ:・・・ノアいたのに・・・配慮できていませんでした
ノア:そう
サチ:やっぱり怒ってる?・・・今日もだけど・・・ずっと隠してたし
ノア:怒るも何もないよ
サチ:でも
ノア:なんにもないってば
サチ:ごめん
ノア:何で謝るの
サチ:だって私が・・・
間
サチ:・・・そうだね、なんで謝らないといけないんだろう
ノア:……ごめん、言い過ぎた
サチ:なんで謝るの?ノアはつらいんでしょう?どうぞ、干渉はしませんので
ノア:ごめんってば
サチ、出て行く。ノアは追いかけられず、ぬいぐるみを床にたたきつける、ついでに部屋もちょっと荒らす
雨の音が強まる
ノア:雨やまないね・・・
スマホが洪水警報を伝える(前期の時みたいなやばいやつ)
ノア:洪水・・・洪水が、起こるんだ
ぼんやりしていたが、急に何かに気がつくノア
ノア:・・・・・・・・・ノアの方舟
ノアとエミが入れ替わる
エミはあしーたがあるーさあすがある、ってアカペラで歌いながら床に落ちた余計なものをゴミ袋に入れて回収していく
エミが出て行くのと入れ替わりで、でっかいブルーシートを引きずってノアが入ってく
そのシートや大量のテープと家具を使って微防水バリケードを作るノア
ドアのノック音
サチ:ノア?なにやってんの?
ノア:準備!
サチ:なんの?
ノア:・・・
サチ:凄い音してるんだけど
無視して作業を進めるノア
サチ:いつまでやってんの、明日一限でしょ
ノア:明日なんてこないよ
サチ:ちょっと、返事くらいしてよ
ノア:サチに関係ない!
スマホがなり、一瞬手に取ってしまうがすぐに投げ捨てる
サチ:ちょっと、寝れないんだけど
くまのぬいぐるみは雑に家具の隙間に突っ込まれ(不)安定材になる
ドアがガチャガチャされる
サチ:ノア、本当にどうしたの?開かないんだけど、ねえ、ノア?
やがてノアなりに満足できるものができあがると疲れて寝る(おやすみなさーい)
土砂降りの音が高まり、ややあってフェードアウト
目が覚めたノアが雨音がやんでいることに気がつきテープをバリバリ剥がすなどして窓の外が見えるようにする音、見えた窓から朝の光が差し込み、間延びした鳩の鳴き声がする